見 本

経営分析レポート

社会福祉法人◯◯会 特別養護老人ホーム◯◯ 様
2025年度決算(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日)

施設類型 従来型(利用者単価から判定) 定員 特養入所 100人/短期入所 15人 作成 合同会社サン 2026年7月29日 比較の基準 公開統計のみ(有料データ不使用)

結論

  1. 短期入所の利用率68.3%が、赤字施設の平均73.4%すら下回っています。ここが最大の弱点で、黒字施設の平均82.7%まで戻せば年間およそ1,010万円の増収になります。
  2. 本業の利益率(サービス活動増減差額比率)は6.9%で、従来型の全国平均1.6%を大きく上回り、黒字施設の平均6.2%も超えています。いまは十分に黒字です。崩れる前に手を打つ段階です。
  3. 費用では水道光熱費が全国平均より18.2%高く、年間366万円の差。逆に事務費は36.9%低く、締めるところは締まっています。人件費率65.95%は黒字施設61.8%と赤字施設70.0%のちょうど中間です。

総合評価

やや黒字型

同じ類型(従来型)の黒字施設の平均を100、赤字施設の平均を0としたときの位置が 55 です。黒字寄りですが、崩れやすい項目があります。

足を引っ張っているのは短期入所の利用率で68.3%。黒字施設の平均は82.7%、赤字施設の平均は73.4%です。

逆にサービス活動増減差額比率6.9%と利用者単価12,809円は、いずれも黒字施設の水準にあります。ここは崩さないでください。

従来型の特養は全国で42.1%が赤字です(2023年度決算・福祉医療機構)。2024年度決算では45.2%まで悪化しています。

短期入所の利用率
赤字平均 73.4%
黒字平均 82.7%
68.3%
特養入所の利用率
赤字平均 91.9%
黒字平均 93.8%
92.4%
人件費率
赤字平均 70.0%
黒字平均 61.8%
65.95%
利用者単価
赤字平均 12,613円
黒字平均 12,811円
12,809円
サービス活動増減差額比率
赤字平均 −5.9%
黒字平均 6.2%
6.9%

資金繰りと財務の安全性

この項目は評価していません。今回いただいた資料に、資金収支計算書と貸借対照表が含まれていなかったためです。
下の3つは、他のどの指標よりも先に確認すべきものです。収益がどれだけ出ていても関係なく効いてきます。 次回は、事業活動計算書とあわせて資金収支計算書と貸借対照表も必ずお送りください。この3点が揃えば、見落としはなくなります。
指標計算式危険水準今回
事業活動資金収支差額率事業活動資金収支差額 ÷ 事業活動収入2期連続マイナスは事業継続が危ぶまれる未評価
借入金償還余裕率借入金元利払額 ÷ 事業活動資金収支差額100%超は元利払いを賄えていない未評価
流動比率流動資産 ÷ 流動負債100%未満は支払能力不足(200%以上が望ましい)未評価

表は横にスクロールできます

出典=東京都福祉局「社会福祉法人の財務分析指標・計算式一覧」(日本公認会計士協会 非営利法人委員会研究報告第27号)

費目別の比較

延べ利用日数 37,465人日で割って、利用者1人1日あたりに直しています。全国平均は全国老施協「令和3年度 収支状況等調査」(民設民営 n=1,930・平均定員70.0人)。

費目貴施設全国平均年間の差評価
水道光熱費+燃料費634 円536 円+18.2%+366 万円高い
給食費(材料費)922 円844 円+9.3%+294 万円やや高い
介護用品費(おむつ等)263 円217 円+21.0%+171 万円高い
人件費8,448 円8,578 円−1.5%−49 万円平均並み
事務費867 円1,373 円−36.9%−1,896 万円低い

表は横にスクロールできます

介護用品費の全国平均217円は、公表されている年額(5,830千円)を当社が延べ利用日数で割り戻した換算値です。原資料に載っている実測値ではありません。おむつ代だけを切り出した全国平均は、公的資料には存在しません。

加算の算定状況

お預かりした収益には、いま算定している加算がすべて含まれています。そのうえで、まだ取れる余地があるかを利用者単価から見ます。

貴施設の利用者単価は 12,809円、従来型の全国平均は 12,713円。差は +96円で、年間に直すと +360万円です。
基本報酬は同じ類型なら大きくは変わりませんから、この差のほとんどは加算の算定状況の差と考えられます。すでに全国平均以上に算定できています。

それでも、まだ余地が残りやすいもの

加算単位数全国の算定率年間の目安要ること
生産性向上推進体制加算Ⅱ10 単位/月18.6%(未算定74.5%)12 万円委員会の設置とテクノロジー1つの導入。金額は小さいが取りやすく、Ⅰへの足がかりになります
生産性向上推進体制加算Ⅰ100 単位/月6.9%123 万円見守り機器など3種の導入と改善成果データの提出
科学的介護推進体制加算Ⅱ50 単位/月Ⅰ36.9%・Ⅱ35.1%(未算定28.0%)62 万円3か月に1回以上のデータ提出。疾病・服薬情報も含めます
自立支援促進加算280 単位/月未確認345 万円配置医師の継続的な関与が最大の壁です
栄養マネジメント強化加算11 単位/日未確認412 万円管理栄養士を入所者50対1で配置。増員が要ります

表は横にスクロールできます

1単位10円(その他地域)で計算しています。地域区分によって単価は変わります。上記はすでに算定済みのものを除いた想定です。実際の算定状況は、介護給付費算定に係る体制等の届出でご確認ください。
科学的介護情報システムに提出する系の加算は同じデータ提出の仕組みに乗るため、まとめて取るのが定石です。

最低賃金との距離

項目金額見立て
人件費からの概算時給1,934 円年間人件費 ÷(常勤換算78.5人 × 2,085時間)
東京都の最低賃金(令和7年度)1,226 円全国加重平均は1,121円
その差+708 円いまは余裕があります
来年+70円で1,296円になった場合の追加人件費追加なしいまの水準なら底上げは不要です
賃金が一律3.6%上がったときの費用全体の増加約 +2.4%給与費率65.95%を通じた波及

表は横にスクロールできます

概算時給には賞与・法定福利費・退職給付費用が含まれるため、実際にお支払いの時給より高めに出ます。介護労働実態調査(令和6年度)の時給者の平均は1,262円。最低賃金の伸び(令和7年度は全国平均+66円・6.3%)が介護の賃金の伸び(3.5%)を上回っており、パートの方から順に最低賃金に張り付いていきます。

良い点と、改善の余地

良い点 ここは崩さないでください

  • サービス活動増減差額比率6.9%。従来型の全国平均1.6%を大きく上回り、黒字施設の平均6.2%も超えています。
  • 利用者単価12,809円が黒字施設の平均12,811円とほぼ同水準。加算を取り切れている証拠です。
  • 事務費が全国平均より36.9%低い。年間で1,896万円分、締まっています。
  • 人件費が1人1日あたり8,448円で全国平均をわずかに下回りながら、単価は黒字水準。人の使い方が効率的です。

改善の余地

  • 短期入所の利用率68.3%。赤字施設の平均73.4%を下回っています。ここだけが赤字型です。
  • 水道光熱費が18.2%高い。年間366万円の差。設備投資の前に契約の見直しから。
  • 介護用品費が21.0%高い。年間171万円。単価だけでなく使用量の設計で変わります。
  • 人件費率65.95%は黒字61.8%と赤字70.0%の中間。悪くはありませんが、稼働が落ちると一気に赤字側へ動きます。
  • 特養入所の利用率92.4%も黒字平均93.8%に届いていません。

打ち手

同じ類型の黒字施設の平均まで戻したとき、年間でいくら変わるかで並べています。

1
人件費率を、黒字施設の平均まで下げる
1,992 万円年間の効き幅
現在65.95%。黒字施設の平均は61.8%、赤字施設の平均は70.0%です。人を減らす話ではありません。分母である収益が戻れば率は下がります。実際、この施設は1人1日あたりの人件費が全国平均を下回っており、払いすぎているのではなく、稼働が足りていない状態です。打ち手2と3が進めば、この数字は自然に下がります。
根拠
貴施設の数値
65.95%
黒字施設の平均
61.8%
赤字施設の平均
70.0%
金額の出し方
差 4.15ポイント × サービス活動収益 479,880,000円
出典
福祉医療機構「2023年度 特別養護老人ホームの経営状況について」
2
短期入所の利用率を、黒字施設の平均まで戻す
1,010 万円年間の効き幅
現在68.3%。黒字施設の平均は82.7%、赤字施設の平均は73.4%です。黒字と赤字を分ける要因のうち、差が最も大きく開くのがこの項目でした(従来型で9.2ポイント)。空床利用型の受け入れ枠と、居宅介護支援事業所への空き情報の出し方から見直すのが定石です。短期入所の利用率が高い施設は、本体入所の利用率も収支も高く出ます。
根拠
貴施設の数値
68.3%
黒字施設の平均
82.7%
赤字施設の平均
73.4%
金額の出し方
差 14.4ポイント × 短期定員15人 × 365日 × 利用者単価12,809円
出典
福祉医療機構「2023年度 特別養護老人ホームの経営状況について」
3
特養入所の利用率を、黒字施設の平均まで戻す
655 万円年間の効き幅
現在92.4%。黒字施設の平均は93.8%です。1.4ポイントの差ですが、100床なら常時1.4人分の空きにあたります。退居から次の入居までの日数を1日縮めるだけでも効きます。待機登録者は128人おられるので、埋められない構造上の理由(居室タイプ・医療対応・面談の段取り)を洗い出す価値があります。
根拠
貴施設の数値
92.4%
黒字施設の平均
93.8%
金額の出し方
差 1.4ポイント × 入所定員100人 × 365日 × 利用者単価12,809円
出典
福祉医療機構「2023年度 特別養護老人ホームの経営状況について」
4
栄養マネジメント強化加算を算定する
412 万円年間の効き幅
11単位/1人1日。管理栄養士を入所者50対1(条件により70対1)で配置し、低栄養リスクのある方への週3回以上の食事の見回りと、科学的介護情報システムへの提出が要件です。管理栄養士の増員が必要なので、人件費との差引で判断してください。100床なら概ね2名体制になります。
根拠
単位数
11 単位/1人1日
金額の出し方
11単位 × 延べ利用日数 37,465人日 × 10円
出典
厚生労働省 令和6年度介護報酬改定 算定構造
5
水道光熱費を、全国平均の水準まで下げる
366 万円年間の効き幅
1人1日あたり634円。全国平均は536円で18.2%高い水準です。契約電力の見直しとデマンド監視だけで下がることがあります。設備投資を検討する前に、まず契約から見るのが順番です。なお全国的にも物価高騰の影響が大きく、法人の63.1%が水道光熱費で悪影響を受けたと答えています。
根拠
貴施設の数値
634 円/人日
全国平均
536 円/人日
金額の出し方
差 98円 × 延べ利用日数 37,465人日
出典
全国老施協「令和3年度 収支状況等調査」

取り組む順番

即効
短期入所の空床対策。居宅介護支援事業所への空き情報の出し方を変えるだけなら、費用はかかりません。空床利用型の受け入れ枠も併せて確認します。
水道光熱費の契約見直し。契約電力とデマンドの確認だけなら数週間で結論が出ます。
生産性向上推進体制加算Ⅱ。委員会の設置と機器1つで取れます。金額は小さいですが、Ⅰへの足がかりになります。
中期
介護用品の使用量の設計。単価交渉より、サイズ選定と交換回数の見直しのほうが効きます。まず1人あたりの使用枚数を出すところからです。
栄養マネジメント強化加算。管理栄養士の増員が前提なので、採用計画と合わせて判断します。
科学的介護情報システムの運用。ここが回れば複数の加算がまとめて取れます。
長期 大規模修繕と建替えの積立。減価償却費率が4.3%と全国平均並みで、いまの利益率6.9%は積立に回せる水準です。黒字のうちに次の20年の原資を作るのが、いまいちばん価値のある判断です。

前提と限界

出典

経営の健康診断のページに戻る

合同会社サン代表 菅野竜輔info@sun-shien.com